転職したいので『ビデオレジュメ』を作って、プロに見てもらった。
転職がしたい。
僕は現在、社会人4年目。
一企業に就業中の身だ。
入社当初こそギラッギラに輝いていた両眼も現在ではすっかり曇り切り、今では月曜日の朝には自分より悲惨な境遇の人に10分ほど思いを巡らせてからでなくては、外に出られない体になってしまった。(女優の杏など)
転職がしたい。
転職すればなんかいろいろ良くなる気がする。
勤務時間も短くなり、給料も上がり、痔も治る気がする。
しかし、しかし…。
ただただ、面倒くさい。
転職活動ってなんだか手数が多い感じがする。
企業研究をし、自己分析をし、履歴書を書き、職務経歴書を書き、写真を撮り、エントリーし、面接に行き…。
それをやる元気があるなら、今の業務をもうちょっと頑張れる気もする。
転職がしたい…。
楽して転職がしたい…。
しかし、残念ながら僕は、どこに出しても恥ずかしいダメリーマン。
これといった実績もなければ、スキルもない。
普通に転職活動をしても、スーツに袖を通す間すらなく、履歴書の段階で門前払いされるのが関の山だろう。
どうすれば転職できるのか…?
そう考えたときに浮かんだアイデアが、これだった。
そう、ビデオレジュメである。
「なんだそれは?」という方のために説明させていただく。
「レジュメ」とはすなわち「履歴書」のことだ。つまりビデオレジュメとは、名前そのままに動画形式で作られた履歴書のことである。
日本ではあまり馴染みのないこのビデオレジュメだが、アメリカでは割と社会に受け入れられた概念のようだ。
YouTubeなどで「video resume」で検索すればメントスコーラ動画並みにザクザクとヒットするので、ぜひ一度検索してみてほしい。
※ ↓ 例として1つ、「Best Video Resume」で検索して一番上に出てきた動画を貼っておく。こんなのがビデオレジュメです。
このビデオレジュメの良いところは、動画にすることで、紙の履歴書よりも(人柄などの面において)より多くの情報を伝えられるというわけだ。
紙の履歴書では門前払いな僕でも、ビデオレジュメがあれば超優良企業からオファーが届いて、転職できるのではないだろうか?
というわけで、早速作ってみようと思う。
※最後の方には、今「転職したい」と思ってる人に役に立つかもしれないアドバイスもあります。どうぞ最後までお付き合いください。
ビデオレジュメに必要なものは…?
YouTubeで見ていると、ビデオレジュメの構成はだいたい以下のような流れになっている。
詳しく説明していこう。
まず1の名乗りだ。
世のビデオレジュメはだいたい(当然ではあるが)名乗るところから始まる。
得てして、さわやかな笑顔で名乗るだけのパターンが多いが、名前を憶えてもらわなければ元も子もないという理由からか、インフォグラフィックなどで印象的に名前を出す人もいる。
2つ目の実績やスキルだが、ここが言わずもがな、履歴書において非常に重要な部分である。
実績に関しては、視覚的に訴えられるところが魅力だ。
例えば「プロダクトの宣伝イベントを手掛けて、その模様が新聞に載った」という実績があれば、新聞記事を動画内で紹介することができる。文字だけで「全国紙に掲載」と書くよりも、新聞そのものを見せられるのでインパクトがある。
スキルに関してはもっと感覚的な訴求が可能で、「3か国語話せる」ならカメラの前で話してみればいいし、「イラレでデザインできる」なら制作物を見せればいい。
そして3つ目の趣味についてだが、これが言わばビデオレジュメの「サビ」の部分である。
テニスが趣味ならプレーシーン見せたり、読書が好きなら愛読書を薦めたり…などやり方は千差万別だが、これらを通して「あなたが如何に人間味にあふれ、ユーモアを理解し、一緒に働きたくなるような人間であるか」をアピールできるのだ。
この3つを通して、求職者は実績・スキル・人間性・プレゼン能力を見せつけるわけである。
さて、僕の場合、何をアピールできるだろうか。
1つ目の「名乗り」はまだいい。
問題は2つ目の「実績・スキル」、3つ目の「趣味」だ。
先述の通り、僕は典型的なダメリーマン…。
社会人生活4年で誇れる実績など何もないし、身についたスキルと言えば、
・就業中にこっそりネットサーフィンするスキル。(メール画面の窓の形にそって小さく別ウィンドウを開き、そこでテキストのみのサイトを見る)
・外回りで、知り合いに見られずサボれるスポットを見つけるスキル(図書館はサボリストたちの聖地)
・トイレでも熟睡できるスキル
・会議で時折それっぽい発言を挟んで参加している感を出すスキル
・仮病で休んでも怪しまれないタイミングを見極めるスキル
ぐらいのものである。
さらにわざわざ動画にしてアピールできるような趣味もない。
強いて言えばマインスイーパぐらいのものだ。Windowsに標準搭載されていた、あのマインスイーパである。
学生時代、徹夜もいとわずマインスイーパに明け暮れていたため、いまや上級を65秒でクリアできるまでになった。そんなタイムを言われても誰もピンとこないだろうが、プレイしている光景を人に見せるとちょっと引かれるくらいの速さである。
一度友達に言われた「それ履歴書に書けるレベルだね」という冗談を真に受け「マインスイーパ上級65秒」とマジで履歴書に書いたところ、面接で「このマインスイーパというのは何ですか?」と突っ込まれて場の空気が凍った苦い思い出がある。
これはビデオレジュメにも載せない方が無難だろう。
というわけで、
・実績ない。
・スキルない。
・趣味ない。
という「3ない」が揃ってしまった僕だが、それでも転職できるよう、頭を使ってビデオレジュメを作っていきたいと思う。
実際に作っていく。
1.名乗りパート
では、ここからは実際にビデオレジュメを作っていく。
まずは名乗りだが、その後の本編に非常に不安を残す身としては、ここで少しでも印象に残る名乗りをしておきたい。
めちゃめちゃ申し送れたが、僕の名前は加味條(かみじょう)という。
まあまあ珍しい名前ではあるが、地味だ。例えば神宮寺誠(じんぐうじ・まこと)などであれば、笑顔でさわやかに名乗るだけで好印象を与えられそうなものだが、この名前なら別の作戦が必要だろう。
やはりインパクトの大きい名乗りにしたい。
インパクトのあるものって何だろう…。何も思い浮かばない…。
そこで馬鹿正直に「インパクト」で画像検索してみたところ
ドリルが出てきた。
これインパクトって呼ぶのね。
仕方がないのでワードを変えてみる。
どうせなら壮大なスケールの人物だと思われたい。
また馬鹿正直に、今度は「スケール」で画像検索してみる。
計量器機が出てきた。
もう嫌だ。
ここは建築グッズから離れるべく、自分で考えることにしよう。
「壮大なスケール」という言葉を出発点にして、マジカルバナナの要領で「名乗り」のモチーフとなるものを考える。
マジカルバナナ♪
「壮大なスケール」と言ったら♪
宇宙だ。
宇宙にしよう。
たしかに宇宙は壮大だ。
というわけで、宇宙的なモチーフを使って「名乗り」をしたいと思う。
ここで登場するのがAdobe After Effects。
何でもできちゃう魔法の動画編集ソフトだ。
これで宇宙を作っていく。
まず地球だが…
こんなもんだろうか。
うん、地球だ。誰が何と言おうが地球だ。決して脱色したGANTZではない。
といいつつ、これだけでは流石に厳しいので、いろいろな要素を足していく。
これを、こうして…ああして…。
SPACE…。
宇宙ができた。
処理に負担がかかりすぎてPCから変な音がしている。
では、これをベースに名乗り画面を作ることにする。
…と、言いつつ、ここから先の工程は完成品のお楽しみとさせていただこう。
「名乗り」が無事に壮大なものになっているか、ぜひ皆さんの目で確かめていただきたい。
2.実績とかスキルとか趣味とか
さて、ここからが問題である。
前述の通り、僕には実績とスキルと趣味がない。
そこで、2つの作戦を立てた。
作戦① 成功している人・物のイメージを借りる。
作戦② 説得力ある人のお墨付きをもらう。
1つずつ見ていこう。
作戦① 成功している人・物のイメージを借りる。
まずこちらである。
「実績やスキルがある人」≒「成功している人」と言うことができるだろう。
つまり逆説的に、成功している人や物が持っているイメージを用いれば、僕が実績やスキルのある人である、という印象を与えられるのではないだろうか。
「成功している人」の定義は難しい。
大企業の社長?
不動産王?
ツイッターで現金やNintendo Switchを配ってる人?
いや、そんなものよりも、これだろう。
そう、なりたい職業ランキングだ。
現代ではYouTuberが1位になるなど、世相を反映した職業が上位を占めることで話題を集めているアレである。
ここで立ち止まって考えたい。僕を採用してくれるのは、今の子供たちではなく、40代・50代の大人たちだ。
そこで、1970年代の「なりたい職業ランキング」を参照することにする。
こう見ると、70年代キッズはかなり現実的なことがわかる。
1位がエンジニアということに加え、上位にサラリーマン、電気技師とリアルな職業が並ぶ。サラリーマンなら放っておいてもなれそうだが、これも時代を反映しているのだろうか。
こう見ると目を引くのは、2位のプロスポーツ選手と、4位のパイロットである。
ということで、「プロスポーツ選手」「パイロット」が持つ「成功」のイメージを借りて、ビデオレジュメに取り入れていこうと思う。
つまりこの作戦のキモはこうだ。
勝った。
早速実行する。
まずはパイロットだが、機長の衣装はネットで簡単に取り寄せることができた。
レンタル予約を入れるとすぐに、しっかりしたものが届いた。ハロウィン前に某激安の殿堂に並ぶ衣装のクオリティとは一線を画している。
胸元には、機長を意味する「CAPTAIN」の文字も。…ん?
「Caputain」?
…よく見ると綴りがめちゃめちゃ間違っている。(正しくはCaptain)
しかし機長はそんな些細なことは気にしないはずなので、気にせず進めていく。
早速袖を通してみよう。
バイト初日の駅員みたいになってしまった。
サイズが完全にあっていない。言い忘れていたが、僕は身長172センチ、体重50キロのガリガリ体系である。ガリガリの機長など聞いたことがないが、どうしたものか…。
と、言いつつ心配は不要だ。奥の手を用意してある。
それがこちら、
グリーンバックだ。
これを使って、空港の背景を合成すれば…
↓
CAPUTAIN!!!
完全に機長である。空港でキャリーケースを颯爽と転がしていそうだし、出発前に低音ボイスでアナウンスしていそうだ。
ちなみに、背景を電車に変えると
「ボケて」の殿堂入り作品みたいになってしまうので注意が必要だ。
続いては、プロスポーツ選手である。
これは幸い、たまたま家にサッカーモロッコ代表のユニフォームがあったのでこれを使う。
実際に着てみよう。
…。
言いたいことはわかる。が、これも背景を合成すればそれっぽくなるはずだ。
↓
!!!???
しまった…。緑色の服はグリーンバックで透けてしまうことを失念していた。
放送事故のガチャピンみたいになってしまった。
だがこれも安心してほしい。
偶然にも、サッカーモロッコ代表アウェイユニフォームも持っていたのだ。
これならば、
↓
このように透けることがなく背景を合成できた。
だが、パイロット服と違って露出度が高いため、残念ながらガリガリ具合が丸出しである。こんなスポーツ選手がいるだろうか。
そこで、さらにダメ押しで要素を足していく。
またレンタルサイトから、ある小道具を取り寄せた。
横の消しゴムのサイズからサイズ感を察していただけるだろう。これが何かは、完成した動画でご覧いただくことにしよう。
作戦② 説得力ある人のお墨付きをもらう。
続いての作戦はこれだ。
人は「説得力のある人」からの”お墨付き”に弱い。
インフルエンサーマーケティングなどこれの最たるもので、例えば元ZOZOTOWN社長の前澤氏から「私がビジネスを勉強するために読んだ本」などと薦められれば、読みたくなってしまうのが人の心というものだろう。
つまり、説得力のある誰かから「加味條は素晴らしい人間だ」というお墨付きをもらえれば、採用にぐっと近づくことができるはずだ。
ただ、僕が前澤社長にお墨付きをもらうのは100万円もらうことよりも不可能なので、別の誰かから「お墨付き」をもらう必要がある。
とりあえず身近な所でTwitter上で説得力のある人を考えてみると、こんな人たちが思いつく。
・マックの女子高生。(共感できることを言いがち)
・純粋な子供。(ハッとさせられることを言いがち)
・外国人の友達。(投稿者が日本に対し不満を持っている点を、自国の文化を引き合いにして批判してくれがち)
女子高生の知り合いはいない。
マックで突然「僕を褒めてくれ」など女子高生に話しかけようものなら、「塀の中で軽作業に従事する職業」に転職する羽目になる。
同様に、子供を連れてくるのもあまり現実的ではなさそうだ。
公園で遊んでいる子供に「おじさんが撮るビデオに出てくれ」なんて言おうものなら、これまた「番号で呼ばれる職業」に転職することになるだろう。
では、外国人はどうだろうか。
これは割と何とかなりそうだ。東京ではちょっと歩けば外国人が見つかるし、突然話しかけても通報されることはないだろう。
そこで今回は、外国人たちに「カミジョウはすごい奴だ!」と褒めたたえてもらい、その様子をビデオレジュメに盛り込むことにする。
外国人の持つ説得力さえあれば、採用にぐっと近づけるはず…?
というわけで、外国人と知り合うことが必要になった。
調べてみたところ、こんなサービスを発見。
この「MeetUp.com」は、言うなればオフ会サービスだ。
共通のテーマに興味のある人でランダムに集まって、アクティビティを楽しめるというものだ。
利用者の多くは外国人で、これを使えば、旅行者や日本在住の外国人に簡単に知り合うことができるらしい。
ただ僕は、実は超の付く人見知り…。
学生時代は2時間の飲み会で、「乾杯!」の一言しか発さなかったこともある。
そんな僕にとって、見ず知らずの外国人にビデオレジュメへの出演を頼むなど、非常にハードルが高い…。
しかし、すべては転職するためだ。
背に腹は代えられない。
さらに調べてを進めてみると、銀座や渋谷のバーでウェイウェイパーティーを楽しむ集まりもあれば、カフェでしっぽり会話を楽しむだけの集まりもあるようだ。
性格上、前者に参加するのは無理そうだが、後者なら何とかなりそうだ。
いろいろ吟味し、「千代田区のカフェで英会話を楽しもう!」という趣向の集まりに参加してみることにした。
※ここからは参加者のプライバシーに配慮し、イメージ画像でお届けします。
当日、集合場所に集まってみると30人ほどの人が集まっていた。比率で言えば、外国人1に対して日本人2ぐらいだろうか。
めいめいテーブルを囲んで英語で話しつつ、時折主催者による席替えが行われる、という流れだった。
同席になったのは、フランス人の青年。
彼に早速お願いしてみる。
:今忙しいですか?手伝ってもらえますか?
:…何かな?
緊張のあまり、LINEのプリペイドカード詐欺のような話しかけ方をしてしまった。
その後なんとか趣旨を説明したところ、
:ハハ、是非やってみたいね。でも僕はスーパーシャイなんだ。動画に出るのはごめんだよ。
と、やんわりと断られた。
何人かに同じように頼んでみたが、みな一様に「動画はちょっと…」と断られてしまった。どうやら、怪しい何かに加担させようとしていると思われてしまったようだ。
この日は、成果なく撤退した。
その後の2週間ほど、何度も同様の集まりに参加してみたが、結果はすべてNG。
なかなか、見ず知らずの人のビデオレジュメに出演してくれるうかつな外国人は現れなかった。
途中、知らない人に話しかけるのがしんどすぎてガチの腹痛にさいなまれるなどもあり、いよいよ諦めようかとも思ったが…。
そう言えば、まだ試していないことがあったような…。
そう、最初のタイミングで除外した「銀座や渋谷のバーでウェイウェイパーティーを楽しむ集まり」である。
※ウェイウェイパーティー…派手な音楽の中、やや暗めの店内で、やたらお酒を飲むことを目的とした集まり。加味條は声が通らないので会話を諦めがち。
普段からバーやクラブに親しんでいる人からすれば、そんなイベントに参加することなど造作もないことかもしれない。
しかし、生まれてこの方、絶妙に日が当たらないジメジメしたところだけを選んで歩いてきた人間にとって、ウェイウェイパーティーに参加することは「Tシャツ、ジーパンで上司の結婚式に参加」するぐらいのハードルの高さがある。
転職がしたいという気持ちに偽りはない。
ただウェイウェイパーティーに行きたくないという気持ちもまた、嘘偽りない真実である。
ここは誠に遺憾ではあるが、外国人から「お墨付き」をもらう案は諦めて別の案を…
:…おい貴様。
:……ん?
:貴様…何甘えたことを言っておるのだ!!
:わ、急に誰か出てきた!? あ、あなたは…?
:わしの名は小早川秀秋…。転職の神、といった方がわかりやすいかな?
:転職の神!?
:急に出てきて記事のリアリティラインを下げるのやめてもらえますか?
:パーティーに行くのが嫌だから外国人にお墨付きをもらう案を諦めるだと…?貴様なめたことを言うな。
:完全無視かい。でも僕、「陽」のオーラで満ち満ちたパーティーに行くくらいなら庭の草でもむしってたいタイプなんですけど…。
:まったく…。そんなんだから貴様はいつまでたってもダメリーマンなのだ。そんな貴様に一つ言葉を授けよう。「アクドゥーン」だ。
:アクドゥーン?悪代官?
:「アクドゥーン」は「アクション(Action=行動)」と「ドゥ(Do=実行)」を掛け合わせた造語だ。今わしが考えた。
:横文字とか使うんですね。
:何が言いたいかというと、貴様が何かをなしたいと思うなら、今すぐアクションを起こせ!何かを実行しろ!その「アクドゥーン」の精神がなければお前は何者にもなれん!
:ちょっと何言ってるかわからないです。
:まだ言うか!貴様そこに直れ!わしが袈裟斬りにしてくれるわ!
:ギャアアアアアアアアアアア
…。
…。
どうやらパーティーに行くのが嫌すぎて、悪夢を見ていたようだ。
しかし、はっきりとは覚えていないが、何か薫陶を受けていたような…。理由はわからないが、やる気がわいてきたような…。
思えばいつも、やりたくないことに出会ったとき、避けて通ってきた。壁にぶつかったとき、諦めてきた。そんなことを繰り返すたびに、いつしか逃げ癖がついてしまったのかもしれない。
ハードルをくぐるのはもうやめにしよう。
飛び越せないハードルには、全身でぶつかっていこう。
男、加味條、行きます!!
※ここからも、イメージ画像でお届けします。
というわけで一大決心をしてやってきたのは、銀座の一等地にあるバー。
既に50人ほどの人が、派手な音楽の中盛り上がっている。
カフェのイベントと比べると、明らかに客層が違う。
外国人の比率も多いし、日本人は男はISSA、女は木下優樹菜みたいな人がいっぱいいる。
しばらく迷った末、端の方にいるアメリカから来たという男性に話しかけてみた。
:すみません、かくかくしかじかで、ビデオレジュメに出演してほしいんですけど…。
:奇遇だね! 僕もいま自分のビデオレジュメを作っているんだ。
え!?そんなことある!!?
聞けばこちらのTonyさん、現在日本で英語教師をされてる方とのこと。
お台場で撮ったというビデオレジュメ用のフッテージ(未編集の動画)を見せてもらったが、風の音で何言ってるのかよくわからなかった。
:とりあえず、カメラの前で僕を褒めてほしいんですけど、いいですか?ネットに顔出ますけど。
:もちろんOKだよ!早速やろう!
え、いいの?というくらいトントン拍子で話がまとまった。
早速静かな廊下に移動して、撮影完了。
ありがとう、Tonyさん!!
その後も、あっけなく2人目、3人目と承諾してくれる人が現れ、1時間ほどですべての収録が完了した。今までの苦労は何だったんだ。
アルコールは人の正常な判断力を奪うというのは、本当だったようだ。
これを読んでいる皆さんも、頼みづらいことを頼むときはお酒のある場でお願いしてみるのがいいだろう。
さあ、これですべての素材がそろった!
ここまでの要素をまとめると、こうだ。
それに加えて、
・全編英語で話す(すごそうに聞こえるから)
・ライオンや象などのフリー素材をランダムに使う(かっこいいから)
など細かなテクニックも駆使し、撮影完了!
そして編集!
完成したビデオレジュメが、これだ!!!
↓
↓
↓
完成品「Jake Kamijo's Video Resume」
やったー!!!
完成だーーーー!!!
これで採用間違いなし!!!
見える!見えるぞ、バラ色の未来が!!
全国の採用担当者の皆様、お急ぎください!一列にお並びください!!
ジェイク加味條を採用したくなった方は、こちらのメールアドレスまで!!!
jake_kamijo_1012@yahoo.co.jp
では、このビデオレジュメを携えて、さっそく街に繰り出してみよう!
完成したビデオレジュメを採用のプロに見せてみた
新しい刀を手に入れたら、試し切りをしたくなるのがサムライの性(さが)というもの。
このビデオレジュメ、実際に採用のプロたちに見せたら、どんな反応がもらえるのか…?
気になりませんか?気になりますよね。
ということで、大人のコネを総動員して、こちらの4人をお呼びすることが出来た。
Nさん。
超大手企業の人事部勤務。
毎年、数万人の学生がエントリーするという超人気企業の新卒採用を務めている「採用のプロ」。
Uさん。
映画・テレビのプロデューサー。
今まで数々のオーディションを主催し、数々の俳優・女優を発掘してきた「人を見る目のプロ」。
Tさん、Yさん。
大手転職支援会社勤務のお二人。
数々の迷える転職希望者たちを導き、ベストな企業と引き合わせてきた「転職のプロ」。
軽い気持ちで周りに声をかけたところ、ガチのプロが集まって引いてしまった。
だが、そんなプロフェッショナルな彼らにも僕の緻密な作戦に基づいた完璧なビデオレジュメを見せれば、好感触を得られるはず!
というわけで、さっそく見せてみよう。
プロデューサーのUさん
まずアポが取れたのは、プロデューサーのUさん。
実際にUさん案件のオーディションでデビューした俳優の名前を聞いたら、大物過ぎてひっくり返ってしまった。
対峙する僕にも、緊張が走る。
:こんにちは、かくかくしかじかで、ビデオレジュメを作りました。「この人がオーディションに来たら採用するか?」という視点で観てもらえますか?
:なんかよくわからないけど、了解です。
恐ろしいほど真顔で、加味條のビデオレジュメを見るUさん。
2分ってこんなに長かったっけ…?
:観ました。
:ありがとうございます!いかがでしたでしょうか…?
:まず僕は、この人がオーディションに来たら優しくすると思います。
:優しく…?
:今って面接でもオーディションでも、厳しくあたった挙句に落とすとすぐネットに書かれるでしょ?だから、「こいつ絶対落とすな」って決まったら、そこからはもう優しくするんです。その人はもう候補者じゃなくて、お客さんだから。
:なるほど!炎上対策ってわけですね。
POINT!
面接で相手が途中から優しくなったら、脈なしの可能性あり!
:…って、え?今「絶対落とす」って言いました??
:うん、「絶対落とす」って言ったね。
:え、それはなぜ…?
:正直に言っていい?
:お願いします。
:まず全体を通して、意味が分からない。言ってることがめちゃくちゃで頭に入ってこないし、誰に向かってしゃべってるのかもわからなかった。そもそも最初の地球から文字が出てくるところ?あのインパクトがピークだったし、思い返してみると、そこと最後の方に出てくる犬の記憶しかない。加味條さん本人の記憶が一番ない。
:そ、そんな…。
:そもそもインタビュアーは誰の声なの?
:加工した僕の声です。
:自分で自分にインタビューしてるの!?なんでそんなことしたの?うーん、まあ、その音声加工とか、映像編集の技術はすごいかもな…。
Uさんのジャッジ:不採用
なんということだろう。完璧なビデオレジュメを作ったはずなのに、いきなり味噌がついてしまった。
しかし、オーディションと求人では見る項目も変わるはず…?
そこに一縷の望みをつなげ、続けて人事部勤務のNさんに見せてみる。
人事部勤務のNさん
そろそろ採用活動が始まるという忙しい合間を縫って駆け付けてくれたNさん。
貴重なお時間感謝いたします!
さっそくビデオレジュメを観てもらう。
Nさんもまた、圧倒的無表情で画面を見つめ続ける。
緊張の募る2分間が過ぎ去り…。
:Nさんには、「この人が新卒採用に応募して来たらどうするか」を基準にコメントいただければと思います。いかがでしょうか。
:えーと…。どうしよう、どこからツッコめばいいでしょうか。
:え?
:じゃあ1個ずつ言いますね。まず、前半で「成功」について語ってらっしゃいましたけど、応募者さんの「意見」って正直どうでもいいんです。
よく面接で座右の銘をおっしゃる方もいるんですが、こちらが聞きたいのは「その座右の銘をもとに、その人が実際に何をしてきたか」なんですよね。「石の上にも三年」が座右の銘なら、実際三年がんばって勉強して資格をとった、なんて話をしてくださると、こっちとしてもイメージが湧きやすいです。
映像の中で加味條さんはトロフィーを持っていましたが、あれは実際に勝ち取ったものですか?
:ネットでレンタルしました。
:…そうですか。
POINT!
面接では意見や座右の銘だけでなく、それをもとに何をしたかを言うべき。
:あとは採用は「一緒に働きたいか」を見るものでもあるので、言い方は悪いですが鼻につくような態度はまずいですね。動画内では、もっと謙虚にふるまった方が印象がいいと思います。
:はい。すみませんでした。
POINT!
人柄は大切!謙虚な姿勢を見せていこう!
:最後の動物とかロケットの部分も意味が分かりませんでした。あれは加味條さんが撮影されたものですか?
:フリー素材です。
:うーん…それだと本当に意味が分からないですね。例えばあの部分が、加味條さんが実際に何かをされている様子のビデオだったとしたらもっとアピールになると思います。結局採用担当が見るのは、その人が実際に何をしてきて、それを通じて何を学んできたかなんですよね。
よく学生さんのエントリーシートなんかですと、「何をしてきたか」はすごく精密に書いてあるのに、「何を学んだか」の部分が見えてこないことがあるんです。
:じゃあ僕のフリー素材は「何をしたか」も「何を学んだか」もわからないので…
:論外です。
Nさんのジャッジ:論外
なんと、Uさんに続き「採用のプロ」Nさんからも大ダメ出しを食らってしまった。
やめて!加味條のライフはもうゼロよ!
もう決着はついてしまった感があるが、大手転職支援会社勤務のTさん、Yさんにも話を聞きに行く。もうアポ取っちゃってたので。
大手転職支援会社勤務のTさん、Yさん
お2人も、めちゃくちゃ多忙なスケジュールを縫ってお会いしてくれた。めちゃくちゃありがたいのだが、既にUさん、Nさんにボコボコにされて意気消沈の僕…。
敗戦処理の投手って、こんな気持ちなんだろうな。
早速動画を見る2人。
今回は「転職相談者がこの動画を持ってきたら、どんなアドバイスをするか」という視点で観てもらう。
さっきまでの2組同様、めちゃくちゃ真顔だ…。短期間で人の真顔を見過ぎて真顔疲れしてきた。真顔疲れってなんだ。
:(観終わって)加味條さん…えーと…。
:はい。すみませんでした。
:いや、これ普通に良いですよ。
:え?
:うん、僕もう既に、加味條さんに紹介したい企業さん何社か浮かんでます。
:同じくです。正直絶対に受けないでほしい業界はありますけど、この動画をもとに採用してくれる企業はあると思いますよ。というか、うち(某大手転職支援会社)なら採用するかもしれない(笑)
:えーーーっ!!本当ですか!?
ちなみに、絶対に受けないでほしい業界とは?
:金融など、堅い業界です。
:なるほどーーー!実はここに来る前に別の方に見せてボロクソ言われてしまったんですが、お2人はどの辺が良いと感じたんでしょうか?
:クリエイティビティ―ですね。動画を作ろうという発想もそうですし、作り込みの部分、編集技術なんかもすごいと思います。
:これをやろうと思って、実際にやり切るという点だけでも評価する企業はあると思いますよ。あと、気になったんですが、外国人の友達が多いんですか?
:いえ、1人もいなかったので、パーティに参加して「出演してくれ!」と頼み込みました。
:えーっ!それも評価ポイントになりますよ。対外との折衝能力があるっていう風に言い換えることができますから。
:折衝能力!強そうな感じがしてきました。じゃあ、お二人は転職希望者の方がこの動画をもって現れたら、どう対応しますか?
:そうですね、まずは書類を作ってもらいます。履歴書、職務経歴書ですね。前提として日本の転職システムは、書類で回ってるんですよ。
:うむむ。書類作りってめんどくさいんじゃないですか?
:そんなことはありません。逆に聞きますが、加味條さんこの動画を作るのにどれくらいかかりましたか?
:撮影と編集で、延べ3日くらいですかね。
:3日も!実は、書類なら30分で作れちゃいます。
:それだけですか!?
:そうです。もちろん、キャリアアドバイザーが書類作りのお手伝いをさせてもらいます。動画作るより、遥かに手軽ですよね。
:はい、転職活動を始めるハードルが一気に下がった気がします。
POINT!
転職書類は、30分で作れる。(動画は3日かかる。)
:加味條さんの場合、それプラス自己分析が必要ですね。
お話を聞いていて、「何の業界・業種に転職したいのか」「何ができて、何ができないのか」などのご自身に関わる要素を、ご自身でわかっていないように感じました。
:うーん、そこなんですよね。僕、会社で成し遂げた実績も特になくて、何をアピールすればよいのやら…という感じでして。
:正直、実績なんて堅い言葉を使わずとも、がんばったこと、好きなことを考えてもらえばいいんです。その題材も、何でもいいんですよ。それこそ、仕事に関わることじゃなくて、麻雀でも、競馬でも、ゲームでもいいですし。
:例えば「3年間引きこもってゲームばっかりしてました」って人でも、掘り下げてみれば「フック」になるものを見つけることは可能なんです。
3年もゲームばっかりするって、普通無理じゃないですか。絶対飽きて、他のことがしたくなる。つまりそれだけ熱中する力があるのはその人の強みですし、さらに詳しく話を聞けば「ゲーム内でコミュニティを作った」みたいに実績と呼べるような要素も出てきたりします。
:なるほど。
:「何ができるか」、「何がやってて楽しいか」、「なぜ今の環境を離れたいのか」っていうのはもちろん考えなければなりませんが、「今までに何か褒められたことはないか」なんてことも掘り下げてみると良いかもしれません。
どんな人でも人生で一回は褒められたことがあるはずじゃないですか。それをよく聞いてみると、その人の強みがわかったりするんです。
:確かに僕も、ここに来る前にある人に動画の技術は褒められました。
:じゃあ、それが加味條さんの強みになるわけです。
POINT!
今までに褒められたことがあるものは何か?で考えると、自分の強みがわかるかもしれない。
:そういった情報をもとに、我々キャリアアドバイザーは転職のお手伝いをさせてもらうんですが、当たり前ですけどキャリアアドバイザーは全知全能ではありません。
イメージとしては、転職希望者さんと一緒に転職先を探していくような形になるんですね。で、その探すときに必要になるのが「書類」です。
:そこに戻ってくるんですね。
:加味條さんも動画は素晴らしいと思うので、とにかく書類を作ってみましょう。まずはそこからです。
:わかりました!
TさんとYさんのジャッジ:書類を作りましょう。
:ちなみに、TさんとYさんにとって、転職希望者である僕って潜在的な顧客ですよね?先日ある方から「面接で落とす人は潜在的顧客になるから優しくする」って聞いたんですけど、お2人が僕にめちゃくちゃ優しいのってつまりそういうことですか?
:…。
:…。
:…。
:あの、動画の中の「アクドゥーン」でしたっけ?
「Action」の中に「Do」を入れちゃうセンス、めちゃめちゃクリエイティビティを感じました。
:(こいつ、やってるな…。)
******************************
いかがでしたでしょうか。
ビデオレジュメを使って転職活動をするアイデアは、どうやら大失敗に終わったようですが、転職活動についていくつか知見を得ることが出来ました。
今回得た知識まとめ
・面接で相手が途中から優しくなったら、脈なしの可能性あり!
・面接では意見や座右の銘だけでなく、それをもとに何をしたかを言うべき。
・人柄は大切!謙虚な姿勢を見せていこう!
・転職書類は、30分で作れる。(動画は3日かかる。)
・今までに褒められたことがあるものは何か?で考えると、自分の強みがわかるかもしれない。
今の職場で辛い思いをしているあなた、何となく現状を変えてみたいあなた、まずは書類作りから始めてみましょう…。
僕はやっぱり面倒くさいのでマインスイーパに戻ります。
ではまた。
2020年3月3日追記
この記事で、オモコロ杯2020銀賞を受賞しました。
「オモコロ杯2020」の結果発表はこちらから。
ツイッターも始めました。インターネットではフォロワー数=戦闘力と聞いたので、ぜひフォローください。2020年3月現在でショットガンを持ったおっさん程度なので、まずはクリリンを目指したいです。
※この記事は、ドラマ「How i met your mother」および菊池良さんのWebサイト「世界一即戦力な男・菊池良から新卒採用担当のキミへ」からインスピレーションを得て作成しました。